December 22, 2012

愛することを忘れずに

いつもクリスマス時期には、おすすめ書籍を紹介していますが、今年はこちら。
ぜひ、ご自分自身にプレゼントしてあげてください。

   

※過去に紹介した本・DVDはこちらの過去記事を参照してください。


今年はどんな書籍を紹介しようか?と、PC内のデータを見ていたら
6年前に書いた(忘れていました)創作が出てきましたので、せっかく
だからそれも掲載することにします。

「たいせつなともだち」を読んでくださった、ある講座講師の方から、
今度やるセミナーの冒頭で参加者に物語を読み聞かせしたいので、
ぜひ創作してもらえないか、と打診されて書いたものです。



         【 愛することを忘れずに 】


みなさんは、ほんもののオオカミを見たことがありますか?

暗闇に、ギラリと光る目。
鋭くとがった恐ろしい牙。
低く響きわたる、唸り声。
でもね、実はオオカミって、とっても愛情が深い動物なんです。

オオカミのオスは、自分の奥さんが先に死んでしまうと、
群れを離れて、ずっと死んだ奥さんのことだけを想って、
一生ひとりきりで、一匹狼として生きていくんです。
なんだか、ちょっと意外でしょう?

では、オオカミのメスが、先に旦那さんに死なれて
しまったら、どう生きていくのでしょうか。

この話は、そんな、あるメスオオカミの物語です。



ズキューーーン・・・
野山に響き渡ったライフルの音。
私の一番大切なものを奪った、あの銃声。
今でも思い出すたびに、胸が苦しくなって涙が溢れてきます。

その日、私は風邪をひいて寝込んでいました。
「具合はどうだい? まだ少し熱があるみたいだね」
主人は、私に優しく問いかけました。
昨晩から、ずっと看病してくれていたのです。

「何か栄養のあるものを食べなくちゃね。」
私のお腹の中には、その時すでに赤ちゃんがいました。
「そうだ、キミが大好きなイチゴを採ってくるよ。
とっても大きなイチゴを食べたら、風邪なんてすぐに治るさ」

その優しい笑顔と言葉が、
主人の最後の想い出になりました。



主人が死んでから、幼なじみのコウタロウとユリカ、
たくさんの仲間たちが、食べ物を届けてくれました。
みんな、とても優しくしてくれました。
でも、私の心は、いつでもひとりぼっちでした。

もし、私があの日、出かけるのをとめていたら・・・
もし、私があの日、風邪なんてひかなかったら・・・
もし、私が・・・
毎日毎日、私は泣いて暮らしました。

優しかった主人に、せめてひとこと
“ありがとう”と言いたかった・・・。
きっとあの日から、私の中の時計は
ずっと止まったままなのでしょう。

いつしか私は、群れを離れていきました。



それからの私は、産まれてくる赤ちゃんのために
必死に生きました。
雪が舞いはじめた野山を駆けまわりました。
狩りをしなければならないのです。

ウサギを襲い、リスを襲い、木の実を集め、
オスのオオカミよりも、どのオオカミよりも、
この山のどの生き物よりも、強く、強く、
ひたすら強く、私は生きました。

悲しんでいる時間なんて、ありません。
厳しい冬を生きていくのは、たいへんなのです。
でも、お腹の中の赤ちゃんは、どんどん育ち、
私のお腹は、どんどん大きくなって・・・

やがて、とうとう狩りができなくなってしまいました。



食べ物がなくなって、何日かが過ぎました。
洞穴の外は、つもった雪で真っ白です。
私は白い息をはきながら、
寒さと空腹で、震えていました。

このまま死んだら、もう悲しまなくて済むのかなぁ・・・。
私も、赤ちゃんも、主人のところに行けるのかなぁ・・・。
死んだら、家族で一緒になれるのかなぁ・・・。
私は、もう疲れてしまいました。

ぐったりと、うずくまろうとした時、
突然に、あの音が鳴り響きました。
ズキューーーン・・・
人間です!!



目をこらすと、2人のハンターが見えました。
かすかに漂う火薬の匂い・・・。
2人とも、手にライフルを持ち、
この洞穴へ、雪の中をまっすぐに歩いてきます。

今日までひとりで生きてきたけれど、
産まれくる子どものために、がんばってきたけれど、
こんなに大きくて重たいお腹になった私では、
もう、ハンターから逃げることはできません。

ハンターたちの話し声が、すぐ近くから聞こえてきました。
「洞穴の奥に何かいるぞ」
「殺して持ち帰ろう」
「オオカミなら、毛皮を売れるぞ」

ハンターたちは、洞穴の前までやって来ました。
私は覚悟を決めて、目を閉じました。
・・・ごめんね、赤ちゃん。
・・・ごめんなさい、あなた。



その時、低い唸り声が聞こえてきました。
ウウウゥゥゥ・・・
オオカミです。それもたくさんの。
ウウウゥゥゥ・・・

ハンターたちは、驚きました。
「オオカミの群れに取り囲まれたぞ」
「すごい数だ、どうしよう?」
唸り声は、どんどん大きくなります。

ひるんだハンターたちの前に、
オオカミの群れが姿を現しました。
コウタロウたちです。
仲間がみんなで助けに来てくれたのです。

コウタロウがひときわ強く、唸り声を上げました。
ウウウォォォォーーーン!
「うわぁーっ、助けてくれー」
ハンターたちは、一目散に逃げて行きました。

あぁ、よかった・・・。
私は全身の力が抜けて、気を失ってしまいました。



どれくらいの時間が過ぎたでしょうか。
気がつくと、目の前には
コウタロウとユリカがいました。
二人とも、優しく微笑んでいました。

「ようやく目が覚めたね、ここがどこだか、わかるかい?」
コウタロウに言われて、まわりをよく見ると
そこは、私が主人と一緒に暮らしていた
あの懐かしい棲家でした。

コウタロウが言いました。
「キミは、お腹の赤ちゃんの
お父さんじゃないんだ。
 お母さんなんだよ」

ユリカが優しく言いました。
「みんな、ひとりぼっちじゃないんだよ」

どうしてこんな仲間たちを捨てたりなんかしたのだろう。
私は、こんなにも愛されていたのに。



涙がポロポロと溢れてきました。
「・・・ありがとう」
ずっと前に言いたかったその言葉を口にした時、
私の中の時計が、カチッカチッと、また動き始めたのを感じました。

「みんながキミのために集めてくれたんだよ」
コウタロウの足元には、
野ウサギの肉や木の実など、たくさんの食べ物が
山のように積まれていました。

「しっかり栄養をとらなくちゃね」
ユリカはそう言うと、
葉っぱのお皿に食べ物をのせて
そっと差し出しました。

それは、一粒の、とっても大きなイチゴでした。



もうじき、山には春がやってきます。
その頃には、お腹の赤ちゃんも
元気に産まれてくることでしょう。
男の子かな。それとも女の子かしら。

天国にいるあなた、見てくれている?
私は今、幸せです。
そして、感謝の気持ちでいっぱいです。
これからは、仲間たちと支えあって生きていきます。

あなたが私にしてくれたように。
仲間が私にしてくれたように。

ずっとあの笑顔を忘れずに。
ずっとこの笑顔を絶やさずに。

愛されていることを忘れずに。
愛することを忘れずに。


                              おしまい
ookami